Release: 2020/07/23 Update: 2020/08/15

やさしい手・壱岐(007 : 極め)

 施設で、こんどの催し”夏祭り”のだしもの”スイカ割り”用の棒を用意していた時のこと

外の縁側で、角材の角を紙やすりで削って握りやすくしている姿を見かねたか大岡さんが

「だめだめ! 小刀で荒削りして、その後に木材用のやすり掛けした後に、紙やすりじゃろうが!」と播州弁でスタッフに一括

まもなく、何処から探し出してきたか大きめのカッターナイフを片手に「どれ かせや」と角材を取り上げる

縁側に敷いたビニールシートにどっぷりあぐらをかき、角を削り出す

握り手のところだけでいいのに、先から根本まで丁寧に角を落としていく

ちょっと削ってはひっくり返し、ちょっと削っては木目を確認しながら、ゆっくりだが隙はない

「もうその辺でいいですよ!大岡さん」と20分程作業を続ける大岡さんに、施設リーダーから声が飛ぶ

「明日なー、小刀とヤスリ持ってきちゃルわ ほんま、素人はこれやからあかんわ」と呟きながら仕掛かりの角材をスタッフに預ける

よくみると、角材の角は綺麗にとれて”スイカ割り”の棒として申し分はない

やれやれ

炎天の縁側で、角刈りの頭を刺すような日光で日射病を気にしてのリーダーの一言だったのだが

ご本人は、納得のいかないままの注進に、スゴスゴと元出てきた吐き出しのガラス戸の奥に戻って行った

 翌日、「ほれニーチャン!、これが小刀な そしてこれがヤスリや 木用のな! 裏が荒削り用で表が仕上げ用や」

新人の小生は”ニーチャン”なのである

テーブルの上に出された小刀と金ヤスリを包んだ布を開きながら講釈が始まると思いきや

「もってこいや、あの棒 やったるから」と人でも刺し殺しそうな勢いの大岡さん

結局、立派な木刀仕様のスイカ割り刀に仕上がったのはこの2日後なのだが、他のスタッフからは「そんなスイカ割り棒 いる?!」と一笑

以前までのの施設では、ご利用者の9割方は女性

それも全員がご主人は他界し、独居環境の方が一人施設を利用されているパターン

ところがここ田舎の小規模多機能型居宅介護施設を利用されているご利用者は3割が男性なんです

そして驚くことに、利用されている女性の3割近くが、お家にはご主人がいらっしゃるという環境

米栽培を始め農業を営んできたこの地域特性かどうかは分からないが、女性と同じ数だけ男性も元気に暮らしておられるのです

都会(とは言っても横濱しか知りませんが・・・)では、何らかの事情で奥さんに先立たれ、施設にお世話になる高齢の男性をお見受けします

「この差は何なの?」は後述するとして、これらの男性群は、はっきり二極化されています

施設をご利用されるに、一つは「何もすることもなく、なんでここに居るかもわからず、ただ1日が過ぎるのを言われるがまま一人ひっそりと過ごされる」方

もう一方は「誰か等ともなく一方的に自慢話を放ち、迷惑顔のご利用者やスタッフの顔色を無視して、一時の余暇をすごされる」タイプ

この差は、間違いなくこの世界に身を置く前のご自身の社会生活の違いである

どっちが良いとか得とかという話ではない

あくまでも周囲がどう感じるかであって、認知機能を失ってしまったご本人は、それぞれに満足して過ごしていらっしゃると思う

 

昨日、親父が夕食を作ってくれた

いつもの”揚げ物”である

天ぷらなのかカツアゲなのかフライなのかは定かでない

「ソースかける? 出汁作る?」と聞くと決まって「醤油!」と返ってくる

海外出張に行くとき、決まって醤油を小瓶にもっていく小生なので違和感はないのだが

何を作ってくれたのかは知っておきたい

失くした携帯を箪笥の上に探す椅子に立った瞬間にバランスを崩し脊椎圧迫骨折

落ち着きのない性分の親父は、3ヶ月は療養必要という医師のすすめに、喧嘩さながら勝手に3週間で家に帰ってきた

おかげで直りきらずか、昼夜とわず、じっと座っておられず、痛がゆいという腰を、立って屈伸運動を常にやっている

夜中も、1時間半おきにベットの柵につかまり上下運動、フラダンスをやるのである

が、

「今晩はお爺ちゃんご飯作ってくれる?」とお願いすると、2時間も休みなく台所にたって揚げ物を作ってくれる

最近は「キャベツも千切りで添えようや」と伝えると、30分かけて刻んでくれる

最近知ったこと、お袋は料理が苦手

「お祖母ちゃんが教えてくれないから作り方知らんねん」と一言いって、庭の花木に水やりに逃げていく

得意なのか仕方無しなのかは分からないが、長きに亘り、日々の生活の中で培ってきた得意芸(おやじの場合は”揚げ物料理”)が

年老いた今、周りから見ていると楽しげなのである

 

パソコンやピアノ、三味線、それにフラダンスや盆栽などはダメ

指先い動かなくなるし、ましては腰や足は衰える一方、とてもじゃないけど美・音感覚は失われます

指先は動かすことで認知種予防になるようだし、手先を動かすことで進行は防止できるようなのでそれなりに選択肢としていいのだろうけど

遅かれ早かれ認知症になった後は、思うように動かせなくなるのでダメね

でも、要は自然と身に付いた芸というか長きにやってきた趣味こそ、残す人生を、つまらなく過ごすか”それなりに退屈しないで過ごすか”を決めるのです

惚けてもできる趣味をもつこと、それも俄に仕立てじゃなく「ちょっとしんどいけど”極めるゾー”」と続けた事を成すのは重要なのである

 

スイカが真っ二つ

そりゃそうだ、できあがったものは、立派な刃をもつ木刀だったのです _(._.)_

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