Release: 2021/11/25 Update: 2021/11/30

RaspberryPi(介護ロボットVol.5:睡眠障害観察・実地編)

「おはようございます、佐伯さん」

「はい、おはよーさん」

「よく眠れました?」

「いつもとおんなじだからよく眠れたんじゃない? あんたどーうなん? あの、あのばーさんうるさくて寝れんかったやろ」

「大丈夫ですよ、昨夜もよーくおやすみでしたよ」とカオルさんがキッチンで朝食の配膳の準備をしながら笑顔で応える

「お茶を入れますから、お顔でも洗っておいてくださいな」

「あいよ」と威勢は良いが洗面台に移動する気配はなく、テーブルの上の新聞を取っていつもの席の椅子を引いて座りだす

89歳の佐伯さんは何時も朝6時前にリビングに起きて来られる

それも夜勤のスタッフが朝食の準備を終える頃を見計らってである

夜は、8時頃に居室に一旦引き上げられるが、パジャマに着替えてからトイレに行かれたあと

居室に戻っても就寝されることはない

ベット柵につかまり立位のまま腰を動かして過ごされる

「佐伯さん、少し横になられると体が楽ですよ」と夜間の巡視で居室に伺った夜勤のスタッフが声掛けすると

いつも決まって「あー、いままで横になってて、今起きたところだよ」とかわされる

3年前にご自宅の椅子から落下されて腰椎骨折、3ヶ月の入院が必要なところ「病院は何にもしてくれない」と言って

20日程で病院を抜け出し自宅に舞い戻ったそうだ

自宅まで歩いて20分の距離を1時間近く掛かったそうだから無理もない

お陰で骨折した第3腰椎は砕けたまま脊髄を圧迫しているようで激しい痛みを感じるようになった

それ以来、立っては腰を振り、足が疲れると四つん這いになっては腰を上下に動かすようになったそうだ

お歳を考えると腰椎手術にも踏み切れず鎮痛剤で腰痛を軽減しての入所であった

 

朝食を終え心不全の薬と併せて鎮痛剤を服用して頂く

「はい、お薬ですよ」とカオルさんが一包化のお薬とお水のコップをテーブルの上に置く

その時必ずお茶は下げる事にしている、毎食は基本番茶を提供しているが番茶の中のカフェインが鎮痛効果を弱めるらしい

「お茶、持ってかないで置いといてーな、後から飲むから」といつもの訴え

「だめですよ、すぐお茶で薬のむんだから、佐伯さん! お薬はお茶で飲んではだめなんですよ!」とカオルさん

「ハイハイ、ほら薬、お水でのんだから良いでしょ、置いといてーな!」といつも通り引かない

「はいはい、5分たったら温かい新しいお茶差し上げますね」と湯飲みを下げて一件落着

しばらくすると座位で腰に違和感を感ずるのだろう、立って椅子の背もたれを持って腰を前後に揺らし始める

小刻みだがリズミカルとはカオルさんの素直な感想

「佐伯さん? お部屋に戻って横になられても良いんですヨ」といつもの勧奨

「まってーな、お茶待ってんねんで まだかいな・・・」

「はいはい今沸かしてますからね」とそば屋の出前さながらに応えてクスッと笑う

認知症の短期記憶障害もこの辺りはしっかり覚えているから不思議なもんだ

確かめるように「はい、沸きましたよ お部屋持って行きましょうね」

「なんやそれ、はよここに持ってきーな」と言いながら既に椅子に座って手招きをしてる

 

そんな佐伯さんの居室に睡眠状態を観察するカメラを設置することになった

夜間・深夜・明け方の就寝状態や睡眠深度は夜勤のスタッフでは見極められないのである

夜間の観測なのでどうしても赤外線LEDをともす必要があり、見慣れぬ装置に何度も「あれなんやのん?

なんか変なランプついてるで」と何日かは不審がって日に何度となくスタッフに苦情が入った

プライバシー保護の観点からも被観察者にはしっかり説明して観察を開始する

ただ、被観察者もしっかり認識することで、意識的に普段と異なる行動を行うことから1週間程度はダミー運転を行った

そんな不信感も収まりつつある頃に観察開始

 

とそんな睡眠観察ビデオを見てグラフに落とす

1秒1コマのタイムラプスなので、一晩(21:30~6:30)9時間分が54分に収まるのだが、これを見ながら時刻とともに

グラフに落とすのも大変な作業ではある

やっとグラフ化した(↓) なんと夜間の睡眠時間は1時間30分である

 

 

 

 

 

レム睡眠、ノンレム睡眠の時間周期は90分というから理屈には合う

この結果を持って1週間後に心療内科を受診

<ドクターの所見>

 (1)夜間も立位腰振り動作は”むずむず脚症候群”の一種

    じっと座ったり横になったりすると、主に脚(人によっては脚だけではなく腰や背中

    腕や手に症状が現れる)がむずむずしたり

    ぴりぴりする、かゆみ、痛みなどの強い不快感が現れる症状

  (2)原因は脳内の神経伝達物質の1つであるドーパミンの機能障害や鉄が関与していると

    言われています

    ドーパミンは、さまざまな運動機能を潤滑にする働きをし、また鉄はドーパミンを作る

    過程で欠かすことのできない物質

    その鉄の不足によりドーパミンがうまく合成されないことで症状を引き起こすとされて

    います

  (3)治療方法としては、生活習慣を見直すことにより、症状の改善が期待できる

     ①カフェインやアルコール、喫煙を避ける

     ②鉄分を補充し、バランスのよい食事

     ③ストレッチやマッサージを習慣にする

とご家族に説明したのは受診に付き添ったカオルさんだ

介護方針などを関係者で話し合う担当者会議の場にドクターが欠席されたので代弁したのだ

「なので、今後これらの生活習慣の改善を主眼に方針を決めたいと思います」

「それと、これは観察してきた私の意見ですが、夜間の睡眠時間が短い分、昼間帯にも2、30分程度の傾眠を

日に5,6回されまています、トータルすると約2,3時間になり、理想的な睡眠時間7,8時間には及ばないものの

昼夜合わせた4時間程度の睡眠がご本人は丁度良いのかもしれません

なので、寝ることの無理強いや寝方に関する矯正は行わないこととしたいと思います

そうすることで精神的にも佐伯さんらしさを尊重した対応を心がけたいと思います

私からは以上です」と軽く会釈をする

 

翌日から、カオルさん提案の、

  ・お茶はカフェインの少ない麦茶

  ・鉄分を意識しての食事メニュー

  ・理学療法士によるリハビリの実施

  ・午前中の散歩レク

が開始された

「かおるさん凄いね、佐伯さんみるみる元気になってきてるよ」とケアマネージャーが

明け勤で帰ろうとするカオルさんに声掛けした

「とんでもないです、私の方が元気もらってますよ 介護ってこう言うことなんだと改めて勉強させてもらいました」

そして

「お疲れ様でーす」と挨拶もそぞろに足取り軽く玄関に向かって行った

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