やさしい手・壱岐(016:寄添う・前編)
ここは、とある小規模多機能型居宅介護施設の食堂兼リビングの一角・カウンター前
ケアマネのあかねさんが声掛けする 「じゃー今からカンファレンス始めますねー」
午前8時30分には明けのケアワーカーを含め5人のケアワーカーが揃ってざわついていた
「かおるさん 昨夜から今朝までのご利用者の様子と申し送り事項あればお願いできますか?」
かおるさん:はいっ もうお気づきだと思いますが、サチさんが昨夜11時頃トイレで転倒され
先程救急搬送をお願いしております 痛みの箇所や痛みの程度から恐らく大腿骨の
骨折ではないかと思いますが、搬送先・大岡病院に付き添いをお願いしたホーム長
からの連絡待ちの状態です・・・・
それと、他のご利用者に特変はありませんが、起床直後の赤間さんのパッドを
取り替えております
どうも下痢便気味で臀部に少し便が付着してますので一番での入浴をお願いします
朝食はいつもどおり機嫌良く召し上がられています 以上です
とはっきり丁寧なそつの無い報告に、ケアマネも安堵したかのように続ける
あかねさん:かおるさん、昨夜はお疲れさんでしたね
まだホーム長から連絡は入っていませんが、サチさんの事はホーム長にお任せして
今日のご利用者様への支援を、皆さんで協力してよろしくお願いします
かおるさん! 洗い物をして上がって下さいナ お疲れさまでした・・・・
かおるさんは厨房に入り、朝食の食器の洗い物を始める
ケアマネからはこの後今日のデイご利用者19人と訪問4人について留意すべき事項などを
周知してカンファレンスが終わる
とそこに施設長から電話が入る ケアマネのあかねさんが直接受けて
「サチさんは右大腿骨骨折されていました、ご家族も来られてお年の割に基礎疾患がない
ことから人工骨への取り替え手術を明後日にでも実施することになりました
ただ、病院という所はどうしても怪我にかんしては事件性がないことを記録に残す必要が
あるみたいで申し訳ないですが泊まりのかおるさんにご足労お願いできないか伝えてもら
えませんか
明けで疲れているところ申し訳ないんですが超勤対応いうことで伝えて下さい」と言う
内容だった
かおるさん:えーっ? 疑われてるんですか? 虐待とか 流行ってますもんね
お年寄りへの虐待
あかねさん:いやいや 疑ってるんじゃなくて~ぇ、お決まりの状況ヒヤリングだと思うよ
ほら、ホーム長も現場に居合わせなかったんでその辺の所は直接かおるさんから
病院に説明してあげて欲しいの サチさんのためにも・・・
かおるさん:えーっ? やっぱ取り調べなんですね?
あかねさん:いーえ違うわ
かおるさん 介護しててご利用者が怪我とか亡くなったことって初めて?
かおるさん:はい 介護のお仕事して4年くらいなりますが初めてです なんか辛いですね
あかねさん:私もそう思うわ でも考えてみて お年寄りに寄り添うってそういうことじゃ
ないかしら
サチさんの場合、傍じゃなかったかも知れないけど近くにかおるさんがいてくれた
ことで安心して病院に行けたんじゃないかなー
これが誰もいない独居の方だと助けも呼べないで寒い中、最悪冷たくなられる方が
いらっしゃるんですよね
そばに誰かがいてくれる、安心して暮らしていける
それに思いもしない出来事に助けてくれる人がいるんだって念ったと思うの
わたし
だから、だから行ってきてくれる?
かおるさん:なーんか 違う意味で涙出てきた ありがとうございます、あかねさん
直ぐに大岡病院いってきますね 私しかいないんですものね
ありがとう、サチさん
かおるさんが、洗い物もしっかり終えて、病院に向かったのはこの直後のこと