鈴林 將夫
「ほんとに道知らねーな そこ右!だろうーが」今日も送迎車に乗るなり最初の信号で一発飛んでくる。
「右ですか?高速に入っちゃいますよ お金持ってませんけど大丈夫ですか?」と懐を気にする。
これまで何十回と送迎に通ってきた道だ。
就職直後の非番の日にマイカーで道を覚えるために走った道だが2回も間違って高速料金を払った記憶はまだ新しい。
半分開き直って「横浜新道」の看板を眺めつつ右に入っていく。「ほら直ぐ一番左車線や!!」
さすが高速、左2車線をビュウビュウ車が通り過ぎる。ウインカーを出す間もない。
かろうじて2車線変更。「危ねー」と言った直後に「そこ左に出る!!」とまたもや無茶振り。
なるほど、右から高速に入って200mで左の出口。出たところはいつもの送迎で見慣れた道だ。
「えーっ、こんな方法あったんですね?」「おまえな?!自分の意見だけで物言うんじゃねーよ」と今日で3回目。
こんなやくざな鈴林さんがサービスを利用開始したのは2週間前。直後に訪問した際、12時間ぐらいタンスと壁の間に挟まっていたのを助けたのは他ならぬ私だ。
不思議と排尿も無く、怪我も無く、うずくまってうめき声の中から助け出した命の恩人である。が、しかしどうだこのヤクザな口調。
不思議なことに他のCWは「鈴林さんは、無口でしゃべらないから怖い」と言う。
そんな鈴林さんの弟さんから電話があった。「今朝5時、亡くなりました・・・」リーダー業務ピークとなる午後5時である。
午後2時半に服薬介助訪問に行った若手CWから「誰もいないんですがどうすればいいでしょうか?」と電話。「買い物にでも行ったんだろう。とりあえず帰って来て」と言ったが「でも、いつも付けてるポシェットがあるんですが・・・」
頭にいやな予感が過ぎる。若手CWが帰ってから30分おきに電話をするが不出4回の直後に出た電話に言葉も詰まる。