01-07.マッシュルームの女性
通学に往復4時間も掛けるのも今年が最後
桜の開花は今年の寒さのせいで1週間ほど遅れるらしい
6時に起きるが、窓から差し込む陽は弱い
緑が丘駅7時11分発の電車に乗り込む
3両編成の先頭車両、いつもの2番目の扉である
この駅は三木市に位置するが出発と同時に神戸市に滑り込む
我が家も道路一つを挟んで向こうは三木市なのだ
次は押部谷駅、なんとも田舎風情の名と駅舎である
押部谷駅では下り電車を待ち合わせる
鈴蘭台駅まで単線が続く、お陰で途中待ち合わせで3回5分ほどは無駄に時間を使うことになる
窓越しに線路添いの道がある
いつもは特別みることはないのだが、その日に限って読みかけの本から眼を外して
なんとなく眺めてしまった
マッシュルームのような髪型に真白な顔、一歩一歩丁寧に歩く姿は気品高く近寄り難さを感じる
本に眼を落とす
2分位経ったろうか、目の前をその女性が再び目と鼻の先を窓越しに通り過ぎる
本から目をそらさずとも網膜にはっきりと映し出されるマッシュルームの女性
同じ扉から乗車してきた
一歩一歩丁寧に反対側の扉まで進み扉に肩を寄せかけて窓の外に顔を向けた
真っ白なワンピースが印象的だが肌の色と同化している
次の日、たまたま同じ電車を利用することになった
特別気を掛けること無く到着した押部谷駅でつり革を持って外を見ていると、あの女性がまたしても同じ車両の2番目の扉から入ってきた
ジーンズ姿なので特別目立たないが、あのマッシュルーム頭と色白の顔は、紛れもなく昨日の女性である
ただ同じ車両に居合わせているのは40分
終点新開地駅に到着すると満員電車から押し出される人混みに混じってあの女性の行方は分からない
夏に白い肌とマッシュルーム頭だけが目印のその女性、小脇に抱えるブックバンドに括られた5,6冊の本、いや教科書
学生なのだ
蒸し暑さも和らぎ、少し肌寒さを感じる10月になると白い腕は白いブラウスに覆われる
もう3ヶ月ほどになる
ただ同じ電車の同じ車両、同じ扉の椅子も無いその空間に、サラリーマンや主婦、学生達がモノクロにぼやけ
ただ白いその女性と僕だけが鮮やかに浮かぶその空間を焦がれるようになったのは
そんな情景を一週間もの間、一度も見ることができなかった
一週間と言ってもその女性はたいがい月曜、火曜、金曜しか乗ってこない
週休4日である
そんな次の月曜日、「風邪ひいたの?」、一週間ぶりに乗り込んできたその女性に不躾にも話しかけた
それまで口をきいたことも無くただ揺られる空間の白いその女に初めて口からでた言葉である
「そうなの」とその一言が私の全身を包み込む